7/9(水) 萬葉集に見られる不思議な言葉と上代日本列島に於けるアイヌ語の分布
■第215回 日文研フォーラム
日時:
平成20年7月9日(水)14:00~16:00
発表者:
アレキサンダー ヴォヴィン
ハワイ大学マノア校東洋言語文学部 教授
国際日本文化研究センター 外国人研究員
発表テーマ:
「萬葉集に見られる不思議な言葉と上代日本列島に於けるアイヌ語の分布」
発表内容:
アイヌ語が上代の日本列島において少なくとも東北地方の全地域で話されていたということはもう定説になったと言ってもいいであろう。関東と中部の古い地名
を見ると、「武蔵」(元来「牟射志」/muⁿzasi/)、「阿之我利」、「能登」などは日本語の地名ではなく、アイヌ語であると解釈できる。しかし、地
名だけに基づいた証拠は比較的に弱く、他の証拠を探さねばならない。
この発表では、主に「万葉集」の東歌と防人歌に見られる若干の特別な言葉を取り挙げ、その語源はアイヌ語に遡るということを示したいと思う。例えば、東歌と防人歌に見られる思太~之太 /siⁿda/ 「時」という言葉などがそうである。
阿我母弖能和須例母之太波都久波尼乎布利佐氣美都々伊母波之奴波尼
a-Nka [o]möte-nö wasure-m-ö siⁿda pa tukuⁿba ne-wo purisakë-mî-tutu imö pa sinôp-an-e
我-属格 面―属格 忘―推量―連体形 時 係助詞 筑波 峰―対格 仰ぎー見―不終形 恋人 係助詞 慕―願望―命令形
恋人よ。僕の面を忘れてしまう時には、筑波の峰を見ながら、僕のことを恋しくおもってほしい(萬二十:4367)
思太~之太 /siⁿda/ 「時」は上代中央日本語で書かれた萬葉集の部分には現れない。上代東国日本語には思太~之太 /siⁿda/
「時」だけではなく、登伎~等伎~登吉 /tökî/
「時」も出てくるが、/siⁿda/と/tökî/を文法上観点から見ると、使い方に違いがある。/tökî/は自由名詞で、殆どの場合自立の地位として
か他の名詞の後に出ており、動詞の連体形の後に出る
例は一度しかない。それとは反対に、/siⁿda/は動詞と形容詞の連体形の後にしか出ていない。
アイヌ語には動詞に次ぐhi「時」という不自由名詞があり、殆ど場合所格の助詞taを伴なっている。このhi ta の機能は上代東国日本語には思太~之太 /siⁿda/ 「時」と全く同じである。たとえば、
sirpopke hi-ta ku-sinot rusuy
暖かい 時-所格 一人称―遊―願望
暖かい時に遊びたいな(中川・中本1997:38)
アイヌ語のhi taは音声的に/hiDa/ ~ /hida/である。hi- > si- という変化は日本語だけではなく、近隣の諸言語にも頻繁である。上代東国日本語にも上代中央日本語にも単なる有声子音/b/, /d/, /g/, /z/がなく、無声子音/p/, /t/, /k/, /s/と鼻音有声子音/ᵐb/, /ⁿd/, /ᵑg/, /ⁿz/しかなかった。従って、アイヌ語の[D]~[d]が上代東国日本語に/ⁿd/として借用されたのは自然であろう。発表では、これらを支持する追加 の証拠を示したいと思う。
コメンテーター:
光田 和伸 准教授
会場:
キャンパスプラザ京都 4階 第3講義室
京都市下京区西洞院塩小路下ル
(JR京都駅ビル駐車場西側・京都中央郵便局西側)
申込:
申込不要(定員150名)
受講料:
無料
主催:
国際日本文化研究センター
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